63/100 まず先代に聴いてみる
2026/11/02後継経営者から、経営上の相談を受けることがある。
経営者同士だからこそ分かり合える悩みもあるし、私自身も同じ立場として、できる限り力になりたいと思っている。
そんな相談の中で、時折こんなことがある。
「その件について、先代には相談したの?」
そう尋ねると、まだ聞いていないという。
そんな時、私はまず先代に聞いてみることを勧める。
その会社を長年経営してきた先代ほど、会社の歴史や事情、成功も失敗も知っている人はいないのではないだろうか。
なぜ、その仕組みになっているのか。
なぜ、そのような判断をしてきたのか。
今となっては不合理に思えることにも、当時の事情や理由があるのかもしれない。
もちろん、先代の言うことがすべて正しいわけではない。
時代も変われば、経営環境も変わる。
先代の経験を聞いたうえで、今の時代に合った判断を下すのが、現経営者の仕事である。
私自身も三代目の経営者である。
父である会長とは、今でも経営上の相談をすることがある。
つい最近も、ある問題について相談した。
私なりに考え、いくつかの選択肢の中で迷っていたのだが、会長の見解は明確だった。
その言葉を聞き、私自身も腹が決まった。
決して、会長に決めてもらったわけではない。
しかし、長年会社を見てきた人の経験や視点は、やはり貴重だと感じた。
思えば、私にも先代と意見が合わず、反発した時期があった。
自分の考えが正しいと思い、先代の言葉を素直に受け取れない。
そんなこともあった。
しかし、経験を重ねるにつれ、少しずつ考え方が変わってきたように思う。
先代に相談することは、決して自分の力不足を認めることではない。
むしろ、使える知恵や経験を存分に生かすことこそ、経営者として賢明な姿勢なのではないだろうか。
親子だからこそ、意地を張ってしまうこともある。
自分の力を認めてもらいたい。
いつまでも子ども扱いされたくない。
そんな気持ちも分からなくはない。
しかし、先代と対立することに一生懸命になっているうちは、まだまだ青い証拠なのかもしれない。
先代を乗り越えることと、先代に反発することは違う。
先代の経験を尊重することと、自分の経営を貫くことも、決して矛盾しない。
事業承継とは、経営権や役職を引き継ぐことだけではない。
長い年月の中で積み重ねられた経験や知恵、失敗の記憶、そして会社に込められた思い。
そうした目に見えない財産も、次の世代へ受け渡していくことなのだと思う。
先代が元気で、直接話を聞ける。
それは、決して当たり前のことではない。
いつか聞こうと思っていても、いつまでも聞けるとは限らない。
先代と対立しているのは、まだまだ青い証拠。
素直に頼ってみよう。聴いてみよう。
そこには、まだ自分の知らない会社の歴史や、経営の知恵が眠っているかもしれない。
過去に縛られるのではなく、過去から学び、未来をつくる。
それが、後継経営者の役割なのだと思う。

