986/1000 大切な時間
2026/07/30
高校生の息子が、珍しく聞いてきた。
「どうしたらベースの音がきれいに出るの?」
どうやら音がビビってしまうらしい。
「フレットは真ん中じゃなくて、ボディ側ギリギリを押さえるんだよ。」
そんなことを伝えると、
「へぇ、真ん中を押さえるものだと思ってた。」
と、少し驚いたような顔をしていた。
ほんの数分の会話だった。
その時、私は息子の左手を取り、指の押さえ方を見せた。
そして、何気なくその手をまじまじと見た。
思っていたよりも細くて色が白い。
高校生になり、身長も伸び、見た目は大人に近づいてはきたが、手だけはどこか子どもの面影を残していた。
その柔らかい指先に触れた瞬間、ふと思った。
この子も、あと二年もしないうちに、この家を出ていくのだろう。
大学へ進学するのか、就職するのかは分からない。
けれど、四六時中顔を合わせる毎日は、もう長くはない。
小さい頃は、「早く大きくなれ」と思っていた。
でも、いざその日が近づいてくると、不思議なもので、時間がゆっくり進んでほしいと思ってしまう。
子育ては、毎日が当たり前のようでいて、実は期限付きの大切な時間なのだ。

